電荷の間に働く力

力の重ね合わせはなぜ成り立っているのか?

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基本的事実の確認

 電気には 2 種類あってそれぞれをプラスとマイナスで区別する。同種の電気は退け合い、異種の電気は引き合う。これは実験事実である。2 つの電荷が存在する時、互いの間に働く力は次の式で表される。
\[ \begin{align*} F = \frac{1}{4\pi \varepsilon\sub{0}} \frac{q\sub{1}\ q\sub{2}}{r^2} \end{align*} \]
 \(q\sub{1}\)\(q\sub{2}\)は電荷の量を表している。電荷に働く力は互いの電荷の量に比例し、互いの距離の 2 乗に反比例する。この電荷の単位はクーロンである。1 クーロンという単位は電流から定義されている。電流は電荷の流れであり、1 秒間に 1 クーロンの電荷が流れている状態が 1 アンペアだと言えるようにクーロンの単位を決めたのである。では 1 アンペアの定義はどうなっているかと言えば、電流同士の間に働く力を元に定義されている。1 メートル離して置いた 2 本の導線にそれぞれ同じ量の電流を流し、その間に働く力が 1 メートル当たり\( 2 \times 10^{-7} \)ニュートンであるとき、その電流を 1 アンペアとしている。電荷を直接測るよりも電流を使った方が正確に実験できるのでこちらを基準として選んだというわけである。

 \( 1/ (4\pi \varepsilon\sub{0}) \)は定数であり、この中の\(\varepsilon\sub{0}\)は誘電率を表す。誘電率とはなんなのかというのはこの段階ではまだ知らなくていい。この定数値は電荷をクーロンで表し、距離をメートルで、力をニュートンという単位で表した時に上の式が成り立つようにつじつま合わせとして決めた測定値であるということさえ知っていればいいのであって、なぜ \( 4 \pi \)が入っているのか、なぜ誘電率が分母に入っているのかというのは今は気にしなくても良い。これは後で出てくる法則がきれいな形式でかけるようにうまいこと決めた方法なのである。このことについては後で議論しよう。

 初歩から説明するふりをしながら、読者を初めから決まったレールの上にこっそり乗せておくのは教科書の常套手段なのだ。そういったトリックが教科書には沢山隠されていることを読者は見破らなくてはならない。


力の方向をベクトルで表す

 あとで難しくなってから面倒な説明を入れるより、簡単な今のうちにベクトルの話をしておく事にしよう。上に挙げた式では力の大きさを表しているが、力の向きを表せていない。本当は式の意味さえ分かってもらえればいいので、あまり正確な表現にこだわりたくないのだが、後で式が複雑になった時に「実はこの量はベクトルであり」といきなり説明されても混乱するだろうし、そもそも電磁気学はほとんどベクトル解析による学問なので、ベクトルくらいは理解しておいてもらいたいと思うのである。

 ああ、この調子でそのうち、テンソル解析くらいは理解してもらいたい、とか群論くらいは・・・とか言い出すようになるんだろうなぁ。こわいこわい。

 力の向きは 2 つの電荷の位置を結んだ方向である。よって、それぞれの電荷の位置座標のベクトルの差\( \Vec{r} \)がその方向を表すことになる。それを掛けてやれば力の方向を表せるが、これではお互いの距離だけ余分に掛けてしまうことになるので、距離で割ってやる。上の式では距離を単なる\( r \)と書いて表していたが、距離はベクトルの絶対値\( |\Vec{r}| \)で表せる。つまり、長さ 1 の方向ベクトルは\( \Vec{r}/|\Vec{r}| \)のように書けるわけだ。

 このベクトルを上の式に掛けてやって、\( r \)の代わりに\( |\Vec{r}| \)を使うようにすれば立派なベクトルによる表現が出来上がる。

\[ \begin{align*} \Vec{F} = \frac{q\sub{1}\ q\sub{2}}{4\pi \varepsilon\sub{0}} \frac{\Vec{r}}{|\Vec{r}|^3} \end{align*} \]
 これで今や力もベクトルで表せるようになったので太字で書いておく。一般にベクトルは太字で表すことが多い。


力の重ね合わせ

 この電荷同士に働く力は、単純な重ね合わせで計算できる。このような状態を「線形性が成り立つ」という。3 つの電荷 A B C があったとして、A と B の間に働く力は A と C の間に働く力によって影響を受けない。A に働く力の合計は A と B の間の力と、A と C の間に働く力を単純に足し合わせればいいのである。これは当たり前のことのようであるが、実際はそうではない。世の中にはそうでないことの方が多いのである。

 人間関係などはまさにそうである。物理の話に人間関係を持ってくるのはいささか場違いではあるが、例えとしてはちょうどいい。A さんと B さんが二人だけいる時と、そこに C さんが一緒にいる時では B さんのA さんに対する態度は少なからず影響を受ける。

 人間関係に限らず、自然界にはこのような現象が多数存在する。要は、何か別のものが存在するためにその周辺の性質が変化して、他のものに影響が及ぼされる現象のことであるから、殆んど全ての現象がこれである。あまりに多く存在するので何か一つを特別な例として選ぶのが難しい。しかし別ページにいくつかの例を挙げておこう。

 電荷同士の間に働く力についても、ごく単純な場合についてだけこのような重ね合わせが成り立つのであって、3 つ以上の電荷がお互いに動き始めると事情は変わってきてしまう。いわゆる多体問題というやつである。だから、この場合、話を静電場に限る必要がある。

 しかし、単純な現象であれば必ず重ね合わせが成り立つというものではない。実は、重力でさえ、重ね合わせが成り立たない現象なのである。弱い重力の場合は、互いの影響を無視できてそれぞれの質量から受ける力を単純に足し合わせて計算してやっても問題はないくらいだが、強い重力場の場合にはそれぞれに影響が出てくることが一般相対性理論の結果から分かっている。

 それでは電場については同じようなことになっていないのだろうか?重ね合わせが成り立つと習ってはいるが、実は強い電場どうしを足し合わせるとお互いの影響で値がずれるようなことはないのであろうか?その答えははっきりと聞いたことがない。しかし、日常の範囲では気にしなくても良いようである。もし、電場の線形性が成り立たなくなるほどの強い電場が存在するとしたら、それは弱い力の場と区別できない領域であり、これは素粒子論の話になってくるからである。電磁場と弱い力の場は高エネルギー領域において同じ場に統一される。(ヤン−ミルズ場)そう言うわけで、電磁気学の範囲ではとりあえず、電場は重ね合わせが成り立つと考えて差支えがないようである。言いかえれば、電磁気学は電場の単純な重ね合わせが成り立つ領域に範囲を限った学問であるということで納得しておくことにしよう。

 意外にも議論を始めたばかりのこの段階で既に素粒子論との繋がりが出てきたが、完成した理論であると言われる電磁気学と言えども、大きな物理法則(電弱統一場)のほんの一面(低エネルギーでの振る舞い)を表しているに過ぎないのである。