単位系による違い

なぜ君の教科書が EMAN の説明と違うのか

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教科書によって表現が違う

 このサイトを見て物理の面白さに気付き、喜んで自分の教科書を再勉強する人が多いようで、とても嬉しいことである。ところが電磁気学では法則の表現法や解釈に幾つかの流儀があって、教科書によってバラバラになっている。それで、「なんだ?EMAN の説明と違うぞ。どっちが本当なんだ?」という疑問を持つことになるのだが、まあ当然のことであろう。

 すべての流儀を自由に使いこなせるようになればカッコいいのだが、なかなか大変な苦労が要る。ここでは、どのような流儀が存在するのかということについて、「最低限知っていれば大半の人が満足できる程度」に説明しようと思う。


注目すべき 5 つのポイント

 次に挙げる 5 つの違いを押さえておけば、大抵の教科書の流儀はこの組み合わせで理解できる。

  1. 単位系の違い
  2. 有理系か、非有理系か
  3. 基準となる物理量
  4. E-H 対応か、E-B 対応か
  5. 使う記号の違い

 上から順に説明していこう。

 (1) は使用する単位系の違いであり、長さ、質量、時間の単位として、それぞれ cm, g, S を使うか、m, kg, S を使うかの違いである。前者を「cgs 単位系」と呼び、後者を「MKS 単位系」と呼ぶ。単位の国際標準規格を定めた「SI単位系」では後者に加えて電流(アンペア)を基準にする「MKSA単位系」を採用しているので、前者は肩身が狭くなってきており、やがて使われなくなってゆくことであろう。
昔よく使われていた「ガウス」などの単位は前者による表現である。

 (2) は、4π をどこにつけるかという問題である。私の解説では電荷の間に働く力を表すクーロンの法則の比例定数の中に初めから 4π が入れてあった。これは後で出てくる微分形の法則がきれいになるためにそうしたのであった。しかしクーロンの法則を良く使う職業の人にとって、これは面倒である。だから微分法則の中に 4π が出てきても構わないから、クーロンの法則をきれいにしておきたいと考える。こんなことをされたのではマクスウェル方程式は π だらけになってしまう!
4π をクーロンの法則に入れる方法を「有理系」と呼び、微分法則に出してしまう方法を「非有理系」と呼ぶ。

 (3) は、どの物理量を基準にして他の物理量を決めるか、という問題である。SI 単位系では電流を基準にしている。しかし、真空の透磁率\( \mu\sub{0} \)を 1 にした方がすっきりするじゃないか、という職業の人もいる。主に磁気モーメントを研究したりする人がそうである。これを 「emu ( 電磁単位系 ) 」と呼ぶ。ElectroMagnetic Unit の略である。副作用として、\( \varepsilon\sub{0} = 1/c^2 \)となる。
その逆に、誘電率\( \varepsilon\sub{0} \)を 1 にした方がきれいじゃないか、という人もいる・・・が最近は少ないかも知れない。これを 「esu ( 静電単位系 ) 」と呼ぶ。ElectroStatic Unit の略である。副作用として、\( \mu\sub{0} = 1/c^2 \)となる。
どうせなら\( \mu\sub{0} \)\( \varepsilon\sub{0} \)も 1 にしてやれという立場もあって、これを「Gauss 単位系」と呼ぶ。真空中で EDBH を区別する必要がないのはかなり魅力的である。しかし副作用としてビオ・サバールの法則の中に光速度\( c \)が出て来てしまい、なぜこの法則に光速度が関わっているのかということについてはマクスウェルの方程式を立てるまで理由がはっきりしない。よっぽどうまく解説しないと初学者をつまらないことで悩ませることになるだろう。

 (4) はその人の哲学の問題に関わっている。磁気モノポールはあるのかないのか?もし存在すれば電場と磁場が非常に美しい対称性を持つことになり、磁場 H が電場 E と同じ意味を持つことになる。我々が未だに発見していない領域で、多数のモノポールが電子と原子核のように結晶を作っていたとしたら、電場と全く同じ議論が成り立つではないか。
この立場は磁石を主に扱う研究者に多い。彼らの教科書には磁場 H こそ電場 E に対応するものである、と説明されており、磁荷の間に働くクーロン力を電荷のときと同じ形式で論じ、ビオ・サバールの法則を磁場 H を使って記述する。この方が形式的にすっきりしていて理解しやすいのだという。
私には納得いかない。もし磁場 H の方が本質なのだとしたら、B の物理的な意味をどう解釈したらいいのだろうか。
ただ、どちらの言い分が正しいかということは言えない。モノポールが発見されるか、モノポールが存在することによる論理的矛盾点を見つけるか、電磁気現象が生じる機構が明らかにされて、このような議論をすること自体がバカらしくなるかしない限り、これは電磁気学の未解決問題であり続けるのである。

 (5) は全く見栄えの問題である。\( \Div \Vec{E} \)は代わりに\( \nabla \cdot \Vec{E} \)と書いてやってもいい。\( \Rot \Vec{B} \)は代わりに\( \nabla \times \Vec{B} \)と書いても同じ事だ。\( \mathrm{curl} \Vec{B} \)と書く人もいる。\( \Grad \phi \)\( \nabla \phi \)と書く人もいる。このあたりは好みの問題であって大した違いではない。まあ、初学者にとって見た目の違いはかなり大きな要素ではある。


主な流儀の紹介

 次によく使われている代表的な流儀を紹介しよう。

MKSA 有理単位系
このサイトの解説で採用している方法である。20 世紀前半の頃になって実用的単位系として「発明」された。国際標準として定められているので主流派となっている。ただし、E-H 対応か、E-B 対応かという立場の違いはあるので気をつけなくてはならない。

cgs Gauss 単位系
MKSA 有理単位系の次によく見かける方法である。Gauss 単位系という名称は\( \varepsilon\sub{0} = \mu\sub{0} = 1 \)という立場であることを示している。電気的な量には esu の定義を使い、磁気的な量には emu の定義を使っているので両方が関わる数式には光速度が出現することになる。 「cgs 対称単位系」とも呼ばれている。磁束密度の単位が「ガウス」になっているのは cgs を採用しているからである。この「ガウス」という単位は公に使うのを禁止されたので、この形式もこれから徐々に廃れて行くことであろう。非有理系を使っているので、公式の中に 4π がよく出てくる。

ローレンツ・ヘヴィサイド 単位系
cgs Gauss 単位系とほとんど同じだがこれに有理系を取り入れた形式になっている。これが元となって MKSA 有理単位系が作られて主流がそちらに移行することになった。ちょっと古い教科書ではよく見られる形式である。

cgs 静電単位系
\( \varepsilon\sub{0} = 1 \)とし、真空中で 1 cm の距離にある等しい電気量の間に働く力が 1 dyn である時、これを 1 esu の電気量であると定義する。dyn(ダイン)は cgs 単位系での力の単位であり、 1 N = \( 10^5 \)dyn であるが、現在では使われていない。この1esu の電気量には「フランクリン Fr 」という単位の名称が使われたことがあった。

cgs 電磁単位系
\( \mu\sub{0} = 1 \)とし、真空中で 1 cm の距離にある等しい強さの磁極に働く力が 1 dyn である時、これを 1 emu の磁極の強さであると定義する。


あとがき

 私の学生の頃にはこのような話が載っている教科書が少なくて困った。教科書を書いておられるどの先生方も自分のやり方が唯一最高との自信を持っておられるので(でなければ教科書なんて書けない)、他のやり方があることなどわざわざ説明してはいないのだ。読者に無用な混乱を生じるのも避けたかったのであろう。

 しかし私はいくつかの分野の教科書で引用されている公式の形が違うことですでに混乱させられてしまっていた。一体、どれが本物なのだ?その末にようやく単位系の取り方の違いがあることを知ってそれを調べるために図書館へ向かったのである。

 何冊もの本を調べてようやく、このようなことを解説している本に出会えたのだが、それを解説するだけでかなりのページを割いていた。肝心な事だけ語れや!と言いたくなるような教科書であり、結局「このあたりの事情は難しいんだな」ということだけ理解して本を閉じた。今思えば、それほど複雑な事情でもなかったようだ。