ファンデルワールス力

軽く調べても分からなかったので、分かるところまで書き残しておく。

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ロンドン分散力

 分子間力とファンデルワールス力はほぼ同じ意味で使われることも多いが、厳密に言えば指し示す範囲が異なっている。分子間力というのは分子間に働く様々な要因による力の総称であり、ファンデルワールス力もその一つとして含まれる。この辺り、用語の使われ方があちこちで異なっており少しややこしい状況になっているので、私なりに調べた結果をまとめさせてもらおう。

分子間力
  • イオン結合
  • 水素結合
  • 双極子相互作用(これをファンデルワールス力に含む業界もある)
  • ファンデルワールス力

 このように、ファンデルワールス力以外の分子間力というのは「え、それも含むのか」と思うほど広い。分子のイオン結合の力も、水素結合の力も言われてみれば確かに「分子間に働く力」なので文句は言えない。双極子相互作用というのは、普段から分子内で分極していて電気双極子のようになっている分子どうしに働く力である。水素結合も分子内で分極しているという点では似たようなものだが、水素結合は特別に強くて特徴的なので名前をもらって他とは区別されているといったところだろう。双極子相互作用をファンデルワールス力に含むことがあるという事情は以下の話を読んでもらいたい。

 面倒なことにファンデルワールス力という言葉もまた幾つかの要因を含んでいる。

 分子には普段から電荷の偏りがあるものがあり、電気双極子のようになっている。この電気双極子どうしの力もファンデルワールス力の要因の一つである。また、普段は電荷の偏りがなくとも、他の分子の接近によって影響を受けて分子内部で分極を起こし、電気双極子となるものがある。元々電気双極子になっている分子と、それに誘起されて電気双極子となった分子の間の力もファンデルワールス力に含まれる。そして、誘起されて電気双極子となった分子どうしの間に働く力もファンデルワールス力である。おそらくこの最後のものが一番ファンデルワールス力として説明されるイメージに近いものだと思う。この最後の機構には「ロンドン分散力」という名前が付いている。

ファンデルワールス力
  • 永久的な電気双極子どうしの相互作用(ファンデルワールス力に含まない業界もある)
  • 永久的な電気双極子と、それによって誘起された電気双極子の相互作用
  • 互いの接近で誘起された電気双極子どうしの相互作用(ロンドン分散力という別名あり)

 このリストの最初にある「永久的な電気双極子どうしの相互作用」をファンデルワールス力に含むか含まないかだが、電気双極子が絡む力としてひとまとめにしておきたいという気持ちもなんとなく分かるというものだ。

 今回説明したいのはこのリストの最後にある「ロンドン分散力」であり、タイトルもそうした方が良かったかも知れないが、客寄せのためによく知られた名前を使っておいた。ロンドン分散力は距離の 7 乗に反比例する。それを説明したい。

 「分散力」という言葉のイメージが分かりにくいと思う。これは物質を分散させる力という意味ではない。以前に、物質中の電磁波の分散関係(振動数と速度の関係)には物質の分極が関係しているという話をしただろう。分散関係を説明する分極を説明する力だというので「分散力」である。歴史的経緯でそうなったのだと思うが、かなり遠回りな変な命名である気はする。結局、この分散という言葉のは光がプリズムで七色に分散することに起因しているのだ。


永久的な電気双極子どうしの引力

 ロンドン分散力の機構については電気双極子が分かっていれば簡単に理解できるだろうと高をくくってこんな記事を書き始めたのだが手に負えなかった。どこがどう分からないのかは最後の方にまとめておくことにしよう。大きな図書館へ行く機会があればじっくり調べてみたい。

 まずは「永久的な電気双極子」どうしの引力を考えてみよう。お互いの向きによっていつも引力になるとは限らないが、話を単純化するために、互いに引き合うような方向を向くようになった状態を仮定してみる。

 電気双極子が作る電場は距離の 3 乗に反比例するのだった。それぞれの電気双極子が互いの場所に作る電場は距離の 3 乗で弱くなる。もともとの分極の強さが大きいために互いの影響による追加の分極は無視できるほどだと仮定すると、分極の度合いに変化はない。

 ところが電気双極子が電場から受ける力は、電場にそのまま比例するわけではない。

 電気双極子は一様な電場の中に置かれても力を一切受けないことを思い出そう。正負の電荷がそれぞれ反対向きに同じ大きさの力を受けて全体として釣り合ってしまうからである。ではどういう状況でならこのバランスが崩れて全体に力が働くかというと、電場が場所によって一様でない時である。正電荷と負電荷の場所でそれぞれ電場の大きさが異なっていれば、その差の分だけの力を受けることになる。電場の勾配に比例した力を受けるというわけだ。電場が、位置の違いでどれほど変化するかを計算するには電場を距離で微分してやればいい。

 かくして、この場合の力は距離の 4 乗に反比例するということが言えそうだ。


式だけで簡単に求める

 物理的な内容に踏み込まずにもっと簡単に結論だけを得たいなら、電場中に置かれた電気双極子のエネルギーの式を使うといいだろう。
\[ \begin{align*} U = - \Vec{p} \cdot \Vec{E} \end{align*} \]
 今の話では\( \Vec{p} \)の方は変化せず\( \Vec{E} \)の方だけが\( 1/r^3 \)に比例する形であるから、エネルギー\( U \)\( 1/r^3 \)に比例するという形で表される。そして力は
\[ \begin{align*} F \ =\ - \dif{U}{r} \end{align*} \]
という形で計算できるから\( 1/r^4 \)に比例するという結果を得る。


永久的な電気双極子に誘起された電気双極子の場合

 では「永久的な電気双極子と、それによって誘起された電気双極子の相互作用」はどうだろう?

 分子内部の分極は外部電場に比例して起こることが多い。相手の分子が永久的な電気双極子である場合、距離の 3 乗でその電場は弱くなるのだったから、誘起された電気双極子モーメントの大きさもまた距離の 3 乗で小さくなる。

 つまり電気双極子のエネルギーは距離の 6 乗で弱くなる。それを距離で微分すれば力が求まり、結局距離の 7 乗で弱くなることが言えるわけだ。

 立場を変えて、永久的な電気双極子の側が感じる力を考えてみよう。誘起された電気双極子モーメントベクトルは距離の 3 乗で弱くなるのだった。それが作る電場は距離の 3 乗で弱くなるので、永久的な電気双極子の側に作られる電場は距離の 6 乗で弱くなる。今回は電場の方だけが弱くなるのであって、電気双極子モーメントベクトルの大きさは変わらないけれども、エネルギーは距離の 6 乗で反比例する形で表され、微分して力を求めると距離の 7 乗で弱くなるわけだ。

 お互いが感じる力の機構が少し違っているが、どちらも距離の 7 乗で弱くなっており、結果としてちゃんと作用反作用の法則が満たされているところが面白い。


ロンドン分散力の機構

 さて、問題のロンドン分散力だが、同じように考えるとワケが分からなくなってしまう。

 もともと電気的に中性で分子内の電荷の偏りもなく電気双極子になっていなかった分子どうしがお互いを認識して分極を始めるのはなぜだろう。最初にどちらかが相手に反応しなければどちらも分極することなく、外部に電場を作り出すこともなく、どんなに接近しても力を及ぼし合うことはないはずなのである。きっかけは何だろうか?

 きっかけは何か、量子力学的なゆらぎか何かのせいにしてみよう。それでたまたま自身が電気双極子となり、それが作った電場が距離の 3 乗で弱くなって相手の場所に電場を作る。相手はそれによって誘起されて電気双極子となり、エネルギーは距離の 6 乗で弱くなる形で表される。

 こうして力は距離の 7 乗で弱くなるわけで、うまく説明が出来たような気もする。ところが、この相手の電気双極子は距離の 3 乗で弱くなるのだから、これが自分のところに作る電場は距離の 6 乗で小さくなる。もし自身が、この距離の 6 乗で弱くなる電場に誘起されて電気双極子になるというのなら、電気双極子モーメントもまた距離の 6 乗で弱くなるわけで、エネルギーは距離の 12 乗で弱くなる。これは辻褄が合わない。お互いに立場は同じはずなのだ。

 お互いの分極の原因を相手にあるとした場合には、一方の原因は相手、相手の原因は自分自身、のように無限後退に陥って、矛盾のない値を決められないのだ。

 やはり分極のきっかけは何なのか、というところが重要なようだ。


量子力学が要る?

 これは量子力学的なゆらぎによって説明されるらしい。電荷の偏った状態がたびたび実現するというのである。もちろん、古典的に正電荷と負電荷がペアになったイメージでも「分子内では普段から電子があちこちへと揺れ動いているのだ」と説明できるしその方が簡単だ。しかし実際の分子内の電子はそれほど激しく状態を変えるものではない。たとえるなら確率の雲のように、分子全体を覆うように均等に存在しているのである。

 この量子力学的な分子の構造のイメージを保ったまま分極のきっかけのイメージを両立させるには、量子力学のゆらぎの話が要るということだろうか。いかにも量子力学を駆使して初めてロンドン分散力が説明できたかのような話が多いが、こういうことを気にしなければ古典的な説明でも問題はないはずだ。

 ゆらぎがあると言っても、平均すれば引力や斥力が同じように働くので互いに全く力を及ぼさない気がする。タイミング良くお互いが引き合うように同期する形で分極していると考えたらどうだろうか。そうなると、永久的な電気双極子どうしの間に働く力と同じ形で弱くなる力が働く気がする。分極によって電場を発生させる機構と、それに影響されて分極して力を受ける機構が別々のものだと考えないと、うまく説明できない気がしてしまうのだ。

 この辺り、どういうイメージで説明されるべきものなのか、今の私にはお手上げである。