相転移

まだ書きかけ。

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相とは何か

 氷の温度を上げて行くと、あるところで溶け始めて水に変わる。さらに温度を上げて行くと、あるところでいきなり気体に変わる。このように、物質の体積や密度やその他の性質が急激に変わるところがあると、その変化の前後を別のものとして区別することができる。水蒸気と水とは、急激に変化するからお互いを区別できるのである。もしじわじわと変化したなら区別する基準が見付からないだろう。この区別を「」と呼ぶ。

 しかしこの説明では相の定義としては穴だらけである。相の変化は温度だけが原因で起こるのでもないし、時間的変化の前後だけで区別するようなものでもない。同じ環境に 2 つ以上の相が同時に存在していて、その境目で区別する事だって出来る。だから、次のように言い直せばまだましになるだろうか。

 「密度や組成、その他の性質が均質な領域があって、他の同様な領域との間に、それぞれの性質の違いによって両者を区別できるはっきりとした境界があるとき、それぞれの部分を相と言う。

 だいたい、このようなものだ。他にいい表現があるようなら各自で考えてみて欲しい。

 物質には基本的に「固相」「液相」「気相」の 3 つの区別がある。これらの言葉は何となく分かってもらえるだろうと思って、これまで説明もなしに使ってきた。しかし日常ではあまり意識はされないが、相はこれ以外にもある。

 物質を非常に低い温度まで冷やしていくとあるところで突然、超伝導の性質を示すところがあるので、この前後を「常伝導相」「超伝導相」と呼んで区別できる。また磁性体の温度を上げていくとキュリー点と呼ばれる温度を境にして突然磁力を失うという現象もある。合金も温度によって成分が分離したり、均等に混じり合ったりして色々な相を作る。温度や圧力などの条件によって結晶構造が突然変わったりするのである。氷の結晶構造にも温度や圧力によって 10 種類ほどの相があるのが知られている。

 (参考:以下のページに氷の相図があります。)
http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/phys/crys/ice/lect6.html

 このように物質がその物理量の不連続変化を起こす現象を「相転移」と呼ぶ。


相転移の種類

 相転移の性質を分類するためにギブスの自由エネルギー\( G \)が利用される。\( G \)\( p \)\( T \)の関数であり、圧力や温度は実験的に操作し易いという理由だろう。

 \( G \)の 1 階微分が不連続を起こす相転移を「第 1 種の相転移」または「1 次相転移」と呼んでいる。\( G \)の微分と言えば、次のように\( p \)\( T \)で微分する以外にない。

\[ \begin{align*} \thdif{G}{p}{T}\ =\ V \\ \thdif{G}{T}{p}\ =\ -S \end{align*} \]
 要するに 1 次相転移とは体積あるいはエントロピーの不連続変化が起こる現象のことである。体積変化が起きるのは密度が変化するのと同じことである。水が蒸気になるときに約 1700 倍に膨らむとか、ごく普通に見られる現象だ。密度の不連続変化は過熱や過冷却などといった現象の原因になっている。

 またエントロピーがある一定温度で不連続に変化する事は、熱エネルギーの吸収、発散に対応している。融解熱や気化熱として観察される現象のことである。これらの熱をまとめて「潜熱」と呼んだりもする。融解や気化の時に熱を外界から吸収するとその分だけエントロピーは高くなるし、液化、凝固の時には熱を放出するのでエントロピーは低くなる。

 ここで潜熱の正体がエントロピーを使って説明できるようになったのだと錯覚してはいけない。潜熱の正体は別のアプローチを使って明らかにすべきことである。まぁ、わざわざここで隠さなくても読者は多分潜熱の正体を知っているだろう。分子が自由に運動できるようになるためには、分子間の結合を振り切って飛び出さなくてはならない。そのために必要なエネルギーが潜熱の正体である。これについては後でもう少し詳しく考えよう。

 1 次相転移と来れば、2 次もあるはずだ。\( G \)の 2 階微分以上の量が不連続を起こす相転移を「第 2 種の相転移」または「2 次相転移」と呼ぶ。念のために言っておくが、このときの 1 階微分は当然連続である。そうでなければ 2 階微分は実行できない。第 1 種相転移でありながら同時に第 2 種相転移でもあるような現象があるのではないかと心配することはまるで無意味である。

\[ \begin{align*} \pddif{G}{p} \ &=\ \pdif{V}{p} \ =\ - V \kappa \\ \pddif{G}{T} \ &=\ - \pdif{S}{T} \ =\ -\frac{C_p}{T} \end{align*} \]
 主に圧縮率\( \kappa \)、定圧比熱\( C_p \)に不連続が出る現象である。単に不連続になるだけとは限らない。変化の境目である物理量の値が急激に無限大に発散して、変化後に急激に戻ってくるような現象もある。こういうものも 2 次の相転移に分類する。現実には無限大の物理量などというものはなくて、もし相転移が起きないでそのままの状態で居続けたたならば、ある境界で無限大になってしまうだろう、ということである。実際はそうなる前に急激な変化が起こる。

 第 2 次相転移は、体積が変わらないまま結晶の構造が変化したり、分子の向きが変化したりすることで起きる現象だが、これについて知りたい人は専門書を調べて本格的に学ぶのがいいだろう。超伝導、超流動、磁性、冶金(やきん)学など、個々の現象についてそれぞれが深く調べられており、多数の分野が広がっている。奥が深い話なので私は説明しない。

 この後では第 1 次相転移についての基本だけを説明しておくことにしよう。


クラペイロン・クラウジウスの式

 共存曲線については前からたびたび出てきているが、この曲線の傾きを潜熱や体積変化と結び付けて考える方法がある。理屈は簡単である。共存曲線とは 2 つの相の化学ポテンシャルが等しいという条件で求められるのだった。
\[ \begin{align*} \mu ( p, T )\ =\ \mu' ( p, T ) \end{align*} \]
 ある状態\( A ( p, T ) \)が共存曲線上にあればこの条件が成り立っていることになる。そこから少しだけ離れた共存曲線上の点を考えて状態\( B \)と呼び、\( B ( p + \diff p, T + \diff T ) \)と表そう。ここで出てきた\( \diff p \)\( \diff T \)を使って\( \diff p/\diff T \)という量を計算することが出来れば、これは共存曲線の傾きを表していることになる。式変形を工夫してみよう。状態\( B \)も共存曲線上にある以上は、次の式が成り立つはずだ。
\[ \begin{align*} \mu( p + \diff p , T + \diff T )\ =\ \mu' ( p + \diff p , T + \diff T ) \end{align*} \]
 これを 1 次まで近似展開すれば、

μ ( p, T ) + (∂μ/∂p)dp + (∂μ/∂T)dT + ... = μ' ( p, T ) + (∂μ/∂p)dp + (∂μ/∂T)dT + ...
∴(∂μ/∂p)dp + (∂μ/∂T)dT + ... = (∂μ'/∂p)dp + (∂μ'/∂T)dT + ...

 \( \mu \)は 1 モルあたりの\( G \)だったので、それを\( p \)\( T \)で微分すれば、1 モルあたりの体積\( V \)と 1 モルあたりのエントロピー\( S \)が出てくることになる。

\[ \begin{align*} \therefore \ V \diff p - S \diff T + \cdots\ =\ V' \diff p - S' \diff T + \cdots \end{align*} \]
 これを変形して\( \diff p/\diff T \)が求められる。曲線の傾きというのは\( \diff p \)\( \diff T \)が無限小になる極限で与えられるので、その場合、2 次以降の項は無視できるほど小さくなると考えればいい。
\[ \begin{align*} \dif{p}{T}\ =\ \frac{S-S'}{V-V'}\ =\ \frac{\Delta S}{\Delta V} \end{align*} \]
 相転移での不連続なエントロピー変化\( \Delta S \)は、その時の温度を掛ければ潜熱\( \Delta H = T \Delta S \)として表せるのだった。よって、次のように書き直すことが出来る。
\[ \begin{align*} \dif{p}{T}\ =\ \frac{\Delta H}{T\ \Delta V} \end{align*} \]
 これを「クラペイロン・クラウジウスの式」と呼ぶ。液体が気体になるとき、\( \Delta V \)は大きく、\( \Delta H \)は正になる。よって液相と気相の共存曲線は緩やかな右上がりになる。

 また液体が凝固する時には凝固熱を放出するので\( \Delta H \)は負になるが、体積の方はいつも減るとは限らない。水には 4 ℃ の時に体積が最小になるという特別な性質があって、水が氷になるときには体積は増える。その場合\( \Delta V \)は正であり、右下がりの曲線になる。その他のほとんどの液体の場合には\( \Delta V \)は負であり、曲線は右上がりになる。どちらにしても凝固の時の体積変化\( \Delta V \)は水が水蒸気になるときとは比べ物にならないくらい僅かなものであるから、共存曲線の傾きは非常に急なものとなる。

(ここに図が2つ)

 この図から、氷に圧力が掛かると、同じ温度では液体になった方が安定である事が分かる。

 氷を割れない程度に軽く噛むと素早く溶けるのを知っているだろうか。私はその感覚が好きで、レストランなどでグラスの氷が余ると、口の中でまず薄くなるように溶かした後で、それを奥歯に縦に挟んできゅーっと噛み締めて遊ぶのである。

 スケート靴で氷の上を滑ることが出来るのもこの原理の応用である。強く押された氷が水に変わるから滑るのである。乾いた氷は滑らない。

 氷の塊の上に硬貨やビー玉などを置いておくと、ズルズルと氷を溶かしながら中に埋まって行き、通り過ぎた後は再び凍って塞がってしまう。圧力がなくなると融点が再び上がるからである。この現象は「復氷」と呼ばれている。


臨界点

 上に出てきた相図を見ると、液相と気相の共存曲線は高温高圧に向かう途中で切れてしまっている。これは面倒だから続きを書いていないのではなくて、本当にそこで切れているのである。その点を「臨界点」と呼ぶ。それ以上になると、液相と気相を区別するような不連続な変化が起こらないようになる。通常よりはるかに密度の高い蒸気がいつの間にか水っぽくなっているという感じの連続変化になる。物理では色んな分野で臨界点という言葉を使うが、それまでの状態とは違ったことが起こる境界というような意味であって、それぞれの分野で違う意味で使われているので気を付けないといけない。臨界点での温度や圧力をそれぞれ「臨界温度」「臨界圧力」と呼ぶ。

 臨界点を超えた高温高圧の状態は「超臨界」と呼ばれていて、近年、その性質が工学的に非常に注目されてきているらしい。「超臨界水」などと聞くといかにも健康ブームに乗っかったエセ科学商法に使われていそうな名前だが、そんな怪しい内容ではなく・・・。いや、前言撤回。今調べたら沢山の業者がすでに群がってきているようで驚いた。おかしな話に騙されないようにまずは疑って慎重に真贋を見極めた方がいい。

 超臨界での物質は通常とはかなり違った性質を示すようである。ただの高温、高圧、高密度というだけの違いではない。細かな部分への侵入性が高いという気体のような性質と、他の物質を容易に溶かし込むという液体の性質を併せ持つこと、分子密度を広い範囲で連続的に変化させられることが主だった化学工学的な利点であって、洗浄剤としての利用、劇薬を使わない安全な溶媒としての利用、化学反応の制御などの応用がある。

 それ以外の性質も色々とあるようだ。理由はよく知らないが、分子密度の揺らぎが大きくなるために光の散乱が起き、色を呈したり可視光を通さなくなったりもするらしい。見慣れた無色透明の液体とは見た目にもかなり違うようで面白い。

 超臨界の紹介はこれくらいにしておこう。ところで固相と液相の共存曲線にも同じようにいつか途切れる点があるのだろうか。こちらは圧力が高すぎて実験で確かめることが難しいのだが、多分そこまで行く前に強い圧力で分子構造が壊れてしまって、全く別の性質のものになってしまうだろうと言われている。そうなるともはや熱力学の理論の及ぶところではない。


1 次相転移はなぜ起こる

 臨界点の話を調べている内に、これまで疑問にさえ思わなかった事が気になり始めた。臨界点を超えたところでは不連続変化が起こらないのだという。今まで不連続変化が起こるのが当たり前だと思っていた。それが起こらなくてもいいところがあるというのだ。

 なぜ物質は固体、液体、気体という変化をするのだろう?そしてなぜ 3 つの状態しかないのだろう。つまりなぜ 2 回の不連続変化しかないのだろう。もっと至る所で不連続変化があってもいいはずだ。なぜ臨界以上では不連続変化が起こらなくなるのかということよりも、こっちの方がよっぽど不思議だ。

 この点を理論的に求めるには(まだ途中)