時間を含まない方程式
前回はハミルトン・ヤコビの偏微分方程式を紹介し,使い方を説明した.それは次のような式だった. ここでハミルトニアンが時間を含まないという制限を設けると,この方程式を解くのはかなり易しくなる.ずっと前に説明したように という関係があったので,(いや,ごめんなさい,ホントはまだ説明していません.後でこれについての記事を追加する予定です.)今,この式の右辺が 0 だということは,の変数であるやは時間に依存して変化したとしても,全体の値は変化しないで一定の値になることを意味している. この時,(1) の方程式を満たすは次のような形になる. 後はをどうやって導くか,だ.(2) 式のの変数としてというものがあるが,そこに (3) 式を代入して計算するととなるから, と書いても同じだろう.これは関数についての (1) 式よりも単純な偏微分方程式になっている.これを「時間を含まないハミルトン・ヤコビの方程式」と呼ぶ.単純とは言っても,現実の問題に当てはめようとするとややこしいかも知れない.ここではやという記号で代表して書いているが,実際にはや,という多数の変数を略しているのである.
これを解くことは数学の技巧上の問題なので,ここに具体的な説明を挟むのはやめておこう.いや,幾つか書いてはみたのだが,記事の大半を占める分量になってしまった.本題でないところで長々とさまようのは面白くない.まぁ,別の記事として後で発表するかもしれない.
とにかく関数は合計個の任意定数を含む形で導かれる.求まった解に任意定数を加えたものも解であるので,定数はそれ以外にもう一つあるわけだが,そいつのことは無視している.それら個の任意定数をとでも表すことにしよう.つまりはという形の関数になる.それらの定数は完全に自由に決められるわけではなく,に縛られるので,自由度はである.逆に見れば,がの関数になっているとも言える.要するに, となっており,母関数はという関数の形で求められたということだ.
あとは前回と同じ
ここまで来たら後は前回と同じことを繰り返すだけなのだが,その途中で表れる式を使って議論を展開したいので,くどいかも知れないが全く同じ説明を最後までやっておこう.
今は正準変換後のやが定数となるような変換を探しているのだから,ここに出てきている定数こそがのことなのだと解釈してやる.
正準変換は,という形の母関数を使用したときには, という関係が使えるのだった.だから,この式に,ここでの結果,つまり (4) 式などを代入すれば, となる.ここで (8) 式のというのは定数であるべきはずなのに,右辺を見るとが入っているのでおかしいじゃないかと思うかも知れないが,は変数の各を通して時間変化するのであり,それとうまく打ち消し合っているのであろう.が定数であることを強調するために,これをで書き直そう. この式からは定数であるけれどもの関数として表せるということになる.この式をについて逆に解けば,各をの関数として表すことができる.,は定数だから,これはに依存する関数だということだ.この式が欲しくて計算していたのであり,目的は達せられたことになる.
については (7) 式を使えばいい.の変数はだから,もの関数として求まるだろう.そのの部分に今求めた結果を代入すれば,こちらもの関数として得られることになる.
関数 S の意味
ここで出てきた関数には特別な利用価値がある.本来,ここまで来たら母関数を使って正準変換すべきところだが,気が変わって,ここで求めたを母関数として変換したら,一体,どんな結果になるだろうかというのを考えてみよう.
ハミルトニアンの変換には次の式を使うのだった. ここで母関数の代わりにを使うのである.にはが含まれていないのだから,変換後のハミルトニアンは量的には変換前と等しいということだ.ただしは変換後の変数を使って表し直す必要がある.
これ以外に (5),(6) 式のような関係式がある.まずは (5) 式から見よう.この関係式にの代わりにを使うとどうなるかだが,先ほどやった計算を見ればこれはすぐに分かる.(5) 式に (4) 式を代入した結果が (7) 式になるのだった.つまり,の代わりにを使おうがこれは何ら変わりがないということだ.
では (6) 式はどうなるかというと,これも先ほどの計算から見えてくる.(8') 式を移項してみよう. 少し分かりにくいかも知れない.どう説明したら分かってもらえるだろう.ここに出てくるというのは,変換後の運動量のことであり,それは時間変化しない定数であるからと表しているのである.この式と (6) 式を見比べてやれば,右辺はをに置き換えただけである.違いは左辺に現れる.左辺には変換後の座標変数が出るはずなのだが,母関数としてを使った場合には,それはであり,もはや定数ではないのだ.
要するに,母関数としてを使った変換は,新しい運動量を定数とし,新しい座標変数をという形にする変換だということだ.このというのは,のことだが,これは定数であるのでこのような記号を当ててみたのである.
こんなものがどうして重要なのかはまだ想像が付かないだろう.エネルギーが一定の場合に限定しての話なので応用範囲が広いとも思えない.今回はただ関数の紹介をするのが目的であったのでこれくらいにしておこう.次回からこれを使った理論を展開して行くつもりである.