自然単位系について雑談

前回の話で取りこぼしたちょっと気になること。

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単位系によって次元が違うのはなぜ?

 \( c = 1 \)\( \hbar = 1 \)という自然単位系を採用した場合には質量と長さの次元は互いに逆数の関係があるという話をした。

 普通はこれを「自然単位系」と呼んでいるのだが、広い意味での自然単位系というのは他にも種類があって、例えば相対論などでは\( c = 1 \)\( G = 1 \)を採用した「幾何学単位系」と呼ばれるものを使ったりする。この場合、質量と長さはどちらも同じ次元を持っていて、どちらの単位も「メートル」で表されることになる。前回の話とずいぶん違っているように思える。

 どうしてこのようなことが起きるのかをすっきりと理解したい。例えば、\( c = 1 \)\( \hbar = 1 \)\( G = 1 \)という単位系を採用した場合には「自然単位系」と「幾何学単位系」の両方の主張がぶつかって矛盾が起きたりはしないのだろうか。

 電磁気に関係する量を除外した物理量というのは質量 M、長さ L、時間 T の 3 つの組み合わせによって物理的な次元が決まっている。例えば速度の次元というのは「LT-1」と表される。ここで\( c = 1 \)を導入するというのは、「LT-1 = 1」を主張するのと同じことであって、変形してやると「L=T」となる。つまり長さと時間とは同じ次元であると見なそうというわけだ。

 この考え方を使って幾何学単位系について考えてみよう。重力定数\( G \)の物理的な次元は「M-1L3T-2」と表される。しかし\( c = 1 \)の導入によって L=T となっていることから、これは「M-1L」と書き換えられる。つまり\( G = 1 \)を導入するというのは「M-1L = 1」を主張するのと同じことであって、変形してやると「L=M」となる。つまり、長さと質量も同じ次元だと見なそうというわけだ。

 次に\( c = 1 \)\( \hbar = 1 \)という自然単位系を同じように考えよう。\( \hbar \)というのは角運動量の次元を持つ定数であり、「ML2T-1」と表される。しかし\( c = 1 \)の導入によって L=T となっていることから、これは「ML」と書き換えられる。\( \hbar = 1 \)を導入するというのは「ML = 1」を主張するのと同じことであって、変形してやると「L=M-1」となる。つまり、長さと質量の次元は逆数の関係にあるということになる。

 では全部を採用したらどうなるだろうか?幾何学単位系によってすでに「L = T = M」と主張されているところに、さらに角運動量の次元が 1 だという「ML2T-1 = 1」という主張を持ってくる。M も L も T も同じ次元なのだから、どれも同一のものだとみなして変形してやれば「M2 = 1」を主張することになる。要するに、M も L も T も次元を持たない。無次元である。「物理的な次元などというものは本当はこの世に無いよ」ということになり、先ほど心配していたことは矛盾を起こさず解決するわけだ。


電磁気に関する量

 次に、電磁気的な量まで含めて考えてみよう。MKSA単位系では、M L T の他に電流 I をもう一つの基本的な次元として考えるのだった。「物理量の次元(電磁気学編)

 電荷というのは「時間×電流」だから、その次元は「TI」と表される。

 さて、すでに\( c=1 \)が採用されているとすると、ついでに真空の誘電率\( \varepsilon\sub{0} \)も 1 だという単位系を採用したほうが都合が良い。なぜなら、真空の透磁率\( \mu\sub{0} \)も自動的に 1 だと決まるからである。

 ところで、電磁気学には過去に色んな流儀があって、どんな単位系を採用するかによってマクスウェル方程式を初めとする諸法則の式の形が微妙に変わってしまうのだった。\( \varepsilon\sub{0} = \mu\sub{0} = 1 \)を採用する流儀はガウス単位系と呼ばれていて、方程式のあちこちに光速度\( c \)が顔を出すことになる。すると、ガウス単位系の方程式の方を使わなければならなくなるのだろうか?と心配になってしまうわけだが、すでに\( c = 1 \)としてあるので、方程式の形に違いは出ないのである。

 ただし、有理系かどうかという別の問題がある。関係式のあちこちに出てくる\( 4\pi \)をどこに入れて調整するかという立場の違いであり、MKSA単位系は有理系で、ガウス単位系というのは非有理系である。そこまでガウス単位系に付き合う必要はないので、現在の国際単位系であるMKSA単位系で使われている式に\( \varepsilon\sub{0} = \mu\sub{0} = 1 \)を代入して使えばいいだろう。

 さて、誘電率を 1 とすることで単位系にどんな影響があるだろうか?誘電率の次元は「M-1L-3T4I2」のように表される。この次元はかなりややこしく見えるが、\( c = 1 \)\( \hbar = 1 \)を採用していれば L = T = 1/M という関係があるので、「T2I2」のように書き換えが出来る。誘電率が 1 というのはこれが無次元であるという主張になるわけだから、「I = T-1」となる。電流というのは質量と同じ次元だということだ。電荷の次元は「TI」だったから、電荷は無次元量であるという主張でもあるわけだ。

 電荷が無次元量なら、素電荷というのは一体どんな値なのかというのが気になる。無次元量になるように定数を組み合わせて国際単位系での値を代入してやればいい。
\[ \begin{align*} e \sqrt{\frac{\mu\sub{0} c}{\hbar}} \ =\ 0.3028\cdots \end{align*} \]
 以前に似たようなことを計算したときには\( \hbar = 1 \)ではなく\( h = 1 \)となるような単位系を選んだので素電荷について 0.1208…… という値を出していた。このように素電荷は単位系によって値が変わってしまうので、無次元だとは言ってもこの値自体は重要に思えない。

 この値を 2 乗して\( 4\pi \)で割ってやれば、微細構造定数\( \alpha \)として知られている値が出てくる。
\[ \begin{align*} \alpha \ =\ \frac{e^2 \mu\sub{0} c}{4\pi \hbar} \ =\ \frac{e^2}{4\pi \varepsilon\sub{0} \hbar c} \ \kinji \ \frac{1}{137} \end{align*} \]
 この定数は単位系に関係なく同じ値になる無次元量である。とは言っても、定義に\( 4\pi \)を含めるのかどうかといった人為的な要素で値が変わってしまうのだから、値自体に普遍的な意味があるかというと、まぁ似たようなものである。この定義式に\( c = 1 \)\( \hbar = 1 \)\( \varepsilon\sub{0} = 1 \)\( \mu\sub{0} = 1 \)を当てはめれば
\[ \begin{align*} \alpha \ =\ \frac{e^2}{4\pi} \end{align*} \]
となるので関係が分かりやすいだろう。重力定数\( G \)の選び方には全く関係していなくて、この宇宙での電磁気的な相互作用の強さを表す量なのだろう。