なぜ半導体か

ダイオードの仕組みまでを一気に解説。

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半導体の電子配置

 シリコンやゲルマニウムの最外殻電子は 4 つで、その 4 つの電子を周囲の 4 つの原子との共有に差し出している。その様子は模式的に平面で描かれることが多いのだが、実際には立体的であって、正四面体の中心から各頂点へと腕を伸ばすようなつながりになっている。ダイヤモンド構造と呼ばれるものだ。
 炭素 C の最外殻電子も 4 つであって、 これがシリコンやゲルマニウムのように共有結合して出来ているのがダイヤモンドだ。  ダイヤモンドも半導体材料として優れた性質を持っている。  しかし n 型半導体にするために添加する別の元素との結合が安定しないためにまだ実用化できないでいる。
 電子は原子核の電荷に引き寄せられるようにして束縛されているのだが、外周の電子はその束縛が弱い。金属の場合は、外周の電子は一つの原子核だけに束縛されておらず、金属の全体の中をかなり自由に移動できる。これを「自由電子」と呼ぶ。金属結晶の全体でそれらの自由電子を共有する形になっており、その状態の方がエネルギーが低いので、金属として結合しているのである。

 半導体の場合は、残念ながらほとんどの電子がそれぞれの位置で束縛されてしまっており、結晶中を自由に動けるようにはなっていない。しかし、あとほんの少しのエネルギーがあればその束縛を振り切ることができるという微妙な状況になっており、熱の振動エネルギーや光のエネルギーを得ることで、常に幾分かの電子が結晶中を自由に動けるようになっている。それで、電気の流しやすさについて言えば絶縁体でも導体でもなく、その中間くらいだという性質を持っているのである。ゆえに「半・導体」と呼ばれるわけだ。

 ちなみに絶縁体というのは、この束縛を振り切るためのエネルギーが非常に大きいので、簡単には電気を流せないようになっているのである。

 このあたりのことを量子力学で説明する「エネルギーバンド理論」というものがある。電子はパウリの排他原理でも分かるように、互いに同じ状態を取ることができない。それぞれの原子核に束縛されているうちは位置の区別があるので同じエネルギーであっても別々の状態だとみなされるが、結晶全体で共有されると互いに位置の区別がなくなり、運動量でしか区別できなくなる。それゆえ、それぞれの電子がすべて異なる運動量を持っていなくてはならなくなる。それで、自由電子のエネルギーは全てが同一ではいられなくなり、ある程度の幅を持って分布することになるわけだ。エネルギーを図にすると帯状になっているので、それを「エネルギーバンド」と呼ぶ。バンドというのは帯のことだ。

 束縛されている電子のエネルギーレベルを「価電子帯」と呼び、自由に動けるエネルギーレベルの帯状に図示される領域を「伝導帯」と呼ぶ。その中間には電子が飛び越えなくてはならないエネルギーの隙間があり「禁制帯」と呼ぶ。


N 型半導体

 シリコンやゲルマニウムは最外殻電子が 4 つだと言ったが、そこに、最外殻電子が 5 つの原子をドーピングしたら何が起こるだろうか?リンやヒ素などがそうだ。

 これらの元素は半導体の結晶中のあちこちに収まるのだが、4 つを共有に差し出し、それでも電子が 1 個余る。それらは束縛を離れて、結晶中を自由に動き回ることができるのだ。エネルギーバンド理論で言えば、伝導帯に位置する電子だ。

 ドーピングの量によってこのような電子の数を調整してやることができる。半導体の電気の流れやすさを変化させることができるのだ。

 このようにして電気を流れやすくした半導体のことを「n 型半導体」と呼ぶ。n というのは negative を意味している。電子が負の電荷を持っており、それにより電気が流せるようになっているからだ。

 電子が余っている状態だとは言っても、結晶全体の原子核の電荷の総量と電子の電荷の総量は一致しているので、全体として負に帯電しているわけではないことに注意しよう。電流を流すのに役立てる電子が多くあるということだ。


P 型半導体

 では先ほどとは逆に、最外殻電子が 3 つしかない原子をドーピングしたら何が起こるだろうか?ガリウムやインジウムなどがそうだ。

 これらの元素は結晶のあちらこちらに半導体元素のふりをして収まるのだが、共有に差し出すべき電子が 1 個足りない。それで、結晶のあちこちに電子の空席が生まれるわけだ。

 この空席には隣から電子が割りと容易に移動してくる。すると、今度はそちらが空席になる。そこにまた近所の電子が移動してくる。といった具合に、この空席状態はいつまででも解消しない。

 このような状態にした半導体に電圧をかけると、空席よりもマイナス極側に近い方にある隣の電子がプラス極の方向に引かれて空席に向かって移動する。それが繰り返されると、空席がプラス極からマイナス極へ向かって移動しているように見える。まるで、電子の抜けた孔(あな)がプラスの電荷を持っていてマイナス極へ引かれているかのようである。それで、この電子の空席のことを「正孔」と呼ぶ。英語では hole だ。

 半導体を利用した磁気センサーとしてホール素子というものがある。  これはホール効果を応用したものである。  ホール効果の説明にホール(正孔)が出てくることがあるので気をつけよう。  ホール効果はエドウィン・ホールによって発見された。  ホール効果は Hall で正孔は hole だ。  ホール効果はホールによって起こる現象だとは限らない。
 この正孔が多いほど電流は多く流れる。しかし n 型半導体の電子の移動度よりは多少は落ちる。空席を埋めるように移動する電子は伝導帯にいるわけではないので自由に動けるわけではなく、隣に空席ができた時にだけステップ・バイ・ステップで移動できるからである。

 このようにして電気を流れやすくした半導体のことを「p 型半導体」と呼ぶ。p というのは positive を意味している。正孔があたかも正の電荷を持っている粒のように移動し、それにより電気が流せるようになっているからだ。

 電子が足りない状態だとは言っても、結晶全体の原子核の電荷の総量と電子の電荷の総量は一致しているので、全体として正に帯電しているわけではないことに注意しよう。電流を流すのに役立てる孔が多くあるということだ。

 「電子が一斉にプラス極に動くなら、孔だって一緒にプラス極に動くじゃないか」という勘違いはやめよう。孔の隣の電子だけが移動できるのだ。また、多量の電子が孔を埋めるように一斉にスライドして移動するということもない。価電子帯の電子はそれほど容易には移動できない。地道に一個ずつ隣へ隣へと移動するのである。だからこそ、正孔という粒子が、あたかも現実に存在しているかのようなイメージで考えた方が楽なのだ。


どちらの半導体も普通に電流を流す

 n 型半導体も p 型半導体も、普通に電流を流す物質である。電池の両端から導線を引っ張ってきて、半導体のかけらの両端につないだことを考えてみよう。

 マイナス極からは電子が流れてきて、n 型半導体に入る。n 型半導体の中に入った電子はプラス極に引かれて流れてゆき、プラス極側の導線へと出てゆく。普通の導線と同じだ。

 p 型半導体の場合が多少、想像が難しい。

 半導体の中にある正孔がマイナス極に引かれて移動するだろう。一方、電池のマイナス極からは導線を通って電子が流れてきており、正孔と電子が出会って消滅する。消滅すると言っても、電子が消えるわけではない。正孔というのは穴なのだから、そこに電子が収まるわけだ。

 半導体のプラス極側では電子が抜けだして導線を通って電池へと帰ってゆく。電子が抜けた孔は正孔となり、半導体中をマイナス極へと移動するわけだ。

 このように、ひとつの回路の中で、電流を運んでいる粒子の動きが逆になっているわけだ。


pn 接合

 n 型半導体と p 型半導体を接触させたら何が起こるだろう?

 接合面付近の n 型半導体の電子は p 型半導体に入っていって、正孔を埋めた方が安定するだろう。しかし、電子の全てが p 型半導体の方へ出て行くわけにはいかない。どちらの半導体も、全体としては電荷は中性なので、電子が多く出て行けば n 型半導体の方はプラスの電荷が優勢になって、それを引き戻すような力が働くからである。

 それで、接合面のごく付近だけ、電子と正孔が中和されているような状況になる。n 型半導体の接合面近くでは電子がなくなるし、p 型半導体の接合面近くでは正孔がなくなる。この部分のことを「空乏層」と呼ぶ。

 では電池を用意して、接合された半導体の p 型の方にプラス極を、n 型の方にマイナス極を繋いでみたらどうだろう。n 型の方の電子は過剰になり、押し出され、p 型の方へと引っ張られる。電圧をかけていない間は、あまり流れていっては困るとばかりに引き戻されたのに、どんどんイケイケ状態になる。p 型の方ではプラス極側から正孔がどんどん提供されて、接合面へとやってくる。そこで電子と出会い、次々と対消滅する。結局、全体としては電流が問題なく流れている状態になるのだ。

 今度は逆に、接合された半導体の p 型の方にマイナス極を、n 型の方にプラス極を繋いだらどうなるだろう。n 型半導体の電子は接合面から離れる方向のプラス極に引っ張られ、p 型半導体の正孔も、やはり接合面から離れる方向のマイナス極に引っ張られ、接合面付近には電気を流すものが何もなくなり、それきりである。電流は流れない。

 これらの性質は電流を一方向にだけ流すダイオードとして使える。難しい説明をしたものが色々とあるが、起きているのは単純にはこんなことでしかない。

 ところで、先ほど対消滅と表現したが、電子が消えてなくなるわけではない。n 型半導体の電子は伝導帯にあり、それが価電子帯にある正孔に落ちて収まるのをそう表現したまでのことだ。この落ちた時の落差のエネルギーは光や熱として放出される。これが発光ダイオードの原理である。普通のダイオードでは、それほどエネルギーの落差はないので、低いエネルギーの赤外線くらいしか出ない。


n 型半導体の代わりに金属が使えるのでは?

 以上の説明を聞くと、わざわざ p 型半導体と n 型半導体の二種類を用意しなくても、p 型半導体と金属とを接合させるだけで同じことが起こせるのではないかという気がしてくる。

 実はその通りで、そのようにして作ったものはショットキーダイオードと呼ばれている。ショットキーというのは人名であり、ショットキー接合の発見者である。金属の側の電子は大量にあるため、非常に高速な変化にも対応して動作できるが、反面、逆方向の漏れ電流も大きく、耐圧も低いという弱点がある。

 しかもただ接触させただけではうまくいかない。接触させる表面の状態が非常に大切で、結晶の欠陥が問題になってしまうのだ。不純物が混じっても良くないし、空気中では表面が酸化してしまってうまく接触できない。表面の原子レベルの凹凸さえも気を配る必要がある。

 これは半導体の pn 接合でも同じであり、それゆえ、p 型と n 型を別々に作ってから後で接触させるのではなく、一つのシリコン単結晶の上で不純物を染み込ませて p 型と n 型の部分を作るようにしている。