作用・反作用の法則

「運動量を交換する現象」を私たちは「力」と呼んでいるに過ぎない。

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 ここまでで「力」の定義については話した。しかし「力」というものは実際には存在しないものであって、運動量が変化する現象を見て「力が働いていると考えよう」と人間が勝手に決めた概念である。このことを理解できるだろうか?

 例えば、2 つの運動する物体があってこれらが衝突したとする。そのとき、これらの物体は運動を変化させるだろうが、私たちが観測できるのは運動が変化したという事実だけである。力というものが見えるわけではない。力という何かが飛び出してくるわけでもない。運動の変化を見て「互いの間に力が働いた」ことを間接的に知るだけである。

 これは実際のところ、ただ「運動を変化させるもの・・・・力」がお互いの間に働いたと考えよう、としているだけのことに過ぎない。私たちはこの考えに慣れてしまっているだけなのである。

「運動量を交換する現象」を私たちは「力」と呼んでいるに過ぎない。

 ではなぜ、そのような概念をわざわざ物理に持ち込む必要があったのだろうか。それは、人間の日常の直観にとって分かりやすくて便利だからである。「もっと大きな力があれば・・」「この部分に強い力がかかっている」など、日常でも良く使う台詞である。これら普段使う言葉の意味と物理における「力」の概念は似通った部分が多いのである。

 この「力」という概念を使えば物体同士が与え合う影響について次のように簡単にまとめられる。

「力を他に及ぼした物体は、同じ大きさの反対向きの力を及ぼされる。」

 これが「作用反作用の法則」である。これと同じ事を「力」という言葉を使わないで言い表そうとすれば、ちょっと苦労する。実はこの後に説明する運動量保存の法則がこれに当たるのだ。

 また、この「力」という概念を定義しておけば、物体の重心やつり合いなどを扱う「静力学」の分野で大変役に立つし、「電磁気学」でも共通して使うことが出来る。「力」というのは大変応用性の広い概念である。この分野を日本語で「力学」と翻訳しているのは奥が深い。この力学の分野の主題が「力」であることは間違いがない。


豆知識というか注意というべきか

 力学を意味する言葉は英語では複数あって、物体の衝突などを扱う分野を dynamics と呼び、物体の重心やバランスを扱う分野を statics と呼ぶ。特にこの二つを区別したい時や、議論の視点によって前者を「運動学」あるいは「動力学」、後者は「静力学」と訳することがある。

 この他に mechanics という単語もある。これは「構造学」というニュアンスが強いがやはり「力学」と訳されることが多い。例えば量子力学という単語は時に「quantum dynamics」と表現されるが、「quantum mechanics」と表現されることもある。前者はミクロの世界での粒子のぶつかり合いの法則を議論することに主題が置かれ、後者は原子の内部構造、あるいはこの世の内部構造を解き明かす学問であるというニュアンスを多く含んでいるのだろう。

 工学において機械の可動部の動きを論じる場合には kinematics という単語があり、これも運動学、力学などと訳される。哲学において運動の意味を論じる場合には kinetics なんて単語も使われたりするし、化学や生物学でも使われていたりして、正しい使い分けは良く分からない。それぞれの分野の慣例に倣うのがいいだろう。