接触によるエネルギー交換

接触力のミクロな意味さえ考えなければ
こういう単純な議論も可能である。

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接触して力を伝える時にはエネルギー保存が簡単に言える

 何かに対して仕事をするということは、他の物体に力をかけて動かすということである。その動いた距離と加えた力を掛け合わせたものが「仕事」の定義であった。

 ところで力には「作用・反作用の法則」という性質がある。ある物体に力をかけると必ず同じ大きさの反対向きの力を受ける、というものである。したがってある物体に仕事をする時には、相手に加えた力と同じ大きさで反対向きの力を受けることになるのだろう。接触して物体を押す場合にはその間に自分と相手が動く距離も同じであると考えられる。

 つまり、ある物体に触れてエネルギーを与えれば、同じ大きさの負のエネルギーを相手からもらうことになるのである。これは自分の減った分のエネルギーが相手にそのまま移ったと見ることが出来る。このような場合にはエネルギー保存が当然のように成り立っている。


さらに考えるべきこと

 ところが、重力や電気力、磁力などの離れて働く力の場合には同じ事は言えないのである。なぜなら、離れて働く力の場合には、2 つの物体の間に力が働いている間に両者が移動する距離が違うからである。

 しかも作用反作用の法則さえも成り立っていないことが、後で電磁気学を学んだ時に分かるであろう。これは物体だけを考えたのではダメで、電磁場の効果も考える必要があるということなのだが、今はむしろ知らないふりをしていてくれるとありがたい。

 困ったことに、世の中のすべての力は離れて働く力なのである。手で物を直接押す場合でさえ、原子が持つお互いの電気力によって力が伝えられているので、これさえも厳密には離れて働く力である。日常の視点から見れば、手が物体から離れた時には力が働いていないとみなせるので、あたかも接触して力を伝えているように見えているだけなのである。

 なぜ離れて力が働く時にもエネルギーが保存することになっているのか、これからその理由を考えなくてはならない。


接触して働く力

 次の話題に移る前に、ついでだから接触して働く力について少し説明しておこう。

 我々の身の回りの物体は原子から出来ている。原子はプラスの電荷を持った原子核とマイナスの電荷を持った電子から出来ていて、全体として中性である。その理由で離れた物体からは電気力を受けないでいられるのである。

 しかし、原子同士が近づいた時には状況が変わってくる。原子の表面の電子同士が反発するために、力を感じるのである。いや、原子の仕組みはなかなか複雑で、本当は量子力学を使って議論しなくてはならないのだが、今はこの程度のごまかしで許して欲しい。

 物体の周囲に強力なバネの働きをするごく薄い層があるようなイメージである。机に茶碗がのっていられるのも、ドアのノブを握ることができるのも、我々が地面に立っていられるのも、この電子の反発があるお陰である。

 茶碗は電子の力で机の上にわずかに浮いているのだなんて想像したことがあるだろうか?間に空間があって浮いた状態ではあるが・・・本当は接してなんかいないのだが・・・、我々は普通、この状況を「接触」と呼んでいる。物体に接するとはそういうことなのだ。本当はこれだけで本が書けるくらい深い内容なのだろうが、いい加減過ぎる説明で申し訳なく思う。

 ビリヤードの玉も衝突の瞬間、表面の電子同士が反発しているのであって、その振動が玉全体に伝わって音として聞こえている。しかし玉同士が離れてしまうと、お互いの間に力は働かない。身の周りに良く見られる物体同士の力の伝達は、通常、接触している間だけ行われている。

 そして接触しないで働く力も存在する。静電気、重力、磁石などの力がそうである。実は世の中を支配している力は全て離れて働く力なのである。ところが先ほど説明したように、原子は電気のプラスとマイナスが中和しているために、離れているとほとんど力が働かないと見なせている。

 それにしても、身の回りの多くが接触して働く力であるために、離れて働く力の方が我々の目に不思議に映るのだから皮肉なものである。