コマの歳差運動

複雑な式を使わなくても簡単に理解できる。

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回転をベクトルで表す

 回転を物理の問題として扱えるようにうまく表すにはどうしたらよいだろうか?回転している物体を見るとき、ある部分はこっちへ、ある部分はあっちへ運動していて、一つの方向で表すことが難しく感じる。

 そこで回転軸を使って表現することにしたのである。 軸を決めれば回転の向きが固定されることになる。 それでも回転方向は軸の周りに右回りと左回りの二つあるのでどちらかに決めなければならない。そこで右ねじを回転させた時にネジが進む方向に倣ってベクトルの方向を決めるのである。 そして回転の勢いをベクトルの長さを使って表すことにした。こうすれば回転の様子を一つのベクトルだけで表現できることになる。これが「角運動量ベクトル」と呼ばれているものの意味である。

 便利な表現方法としてこの方法を採用しただけであって、別にそのベクトルの方向に何か特別な力がかかるわけではないことに注意しよう。


コマには倒れようとする力がかかる

 回っているコマがいくらまっすぐ安定して立っているように見えても僅かながら傾きがある。それは軸が重心からずれていて常に微妙に振動していることや、床の僅かの凹凸や、周りの空気の流れなど、色んな要因が働いているからである。

 もし本当に安定しているのなら、コマが止まっても立っていられるはずである。しかしそれには針を立てようとするような微妙なバランスが必要で、ほとんど無理な話である。そして、軸がほんの僅かでも傾いていたら重力はこの軸を倒すように働くことになる。

 さて、軸が倒れる時、コマの先端には床との摩擦があるので、コマの先端部分を支点として倒れることになる。つまり重力は、コマの先端部分を軸にしてコマ全体を回転させるように働くわけだ。この重力の働きは傾きが増すほど強くなる。この重力による回転を先ほどのベクトルで表すと下の図のような向きになる。


コマの首振り運動

 そろそろ、分かってきたかも知れない。つまり重力は、すでにコマが持っている回転に別の方向の回転を加えようとしているのである。その結果どちら向きの回転になるかは、回転のベクトル同士を合成すれば分かる。

 具体的に図で示してみよう。分かりやすいように、コマを大げさに傾けた状況を考えることにする。人によってひもの巻き方が違うかも知れないが、右利きの人がコマをまわすと左回りになるのが普通ではないかと思う。このとき、先ほどのルールで言えば、回転のベクトルは斜め上向きの矢印で表されることになる。

 これに、重力による回転を加えると、軸は傾きをさらに増す方向ではなく、それとは垂直方向に向きを変える事になるのがお分かりになると思う。

 このようなわけで、コマはいつまでも首振りを続けて倒れ込まないでいられるのである。

 コマ自体の回転が落ちてくると、重力による回転の影響の方が強く現われるようになり、次第に首振りは激しくなる。これはコマで遊んだことのある人なら経験的によく知っている事だろうと思う。


さらに専門的には

 重力による軸の回転をコマのもともとの回転と同格に扱ってベクトル合成するのはあまり正確な表現だとは言えない。重力が軸を回転させようとする力を「重力による力のモーメント」としてとらえるべきである。

 力のモーメントとは、角運動量の微小な変化率であるという意味合いがあるのだった。物体に加わった力のモーメントの大きさに応じて角運動量はなめらかに変化するのである。それに応じて重力が軸を傾けようとする力のモーメントの方向もなめらかに変化することになり、いつまでも水平面内での軸ベクトルの回転が続くわけだ。

 専門の教科書ではこのことが微分方程式で表され、それを解いた結果が誇らしげに書かれているように見えるが、そんなに難しい事をやっているわけではないのだ。もちろん教科書の著者も難しいこととは思っていないので、親切な説明は不要だと思っている。