物理を解説 ♪
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行列の規格直交化の意味

行列がベクトルでもあるというイメージにちょっと驚いたりもする。
作成:2021/11/28
更新:2021/12/3

行列がベクトルのように振舞う

ここで少し寄り道して前回の話に出てきた (2) 式の条件の意味をもう少し詳しく説明しておこう.それは次のような式であった. 数式 今回はこの式を (1) 式として話を進めよう.白状すると,前回の話はこの式の意味がよく分からないまま書いていたのである.後から意味に気付いて説明を付け足そうと思ったのだが,話の流れが悪くなってしまうので,こうして新たに記事を追加することになったという次第である.

さて,実数成分を持つ行列ABについて,tr\big(^t AB\big)という計算をしてやると,これは二つの行列の同じ位置にある成分どうしを掛け合わせて全て合計した値に等しくなる.これはそれほど難しくはないので各自で確かめてみてほしい.

これは行列の全ての成分を一列に書き並べて,あたかもベクトルの成分であるかのように考えたときの,ベクトルどうしの内積を計算したようなものである.それぞれの行列がベクトルのようなものであって,それらどうしの内積を意味しているわけである.

では複素数を成分に持つ行列の場合にはどうだろうか.同じような意味が成り立つようにしてやりたい.複素ベクトルどうしの内積では一方の複素共役を取ってから各成分どうしを掛け合わせて合計する必要があった.このようにする理由は,自分自身との内積を計算したときにノルムが実数にならないと内積としての意味が持たせられないからである.つまり,転置した上でさらに複素共役を取ってから積を計算して,その対角和を取ってやればいい.要するに,一方の行列のエルミート共役を取ってから積を計算しろということだ. 数式 ところがエルミート行列の場合にはエルミート共役を取っても取らなくても違いは無いから,次のようにそのまま積を計算して対角和を取ってやるだけで同じ意味になる. 数式 これが (1) 式の左辺の意味である.行列どうしの内積を計算していたというわけだ.

ちなみに,この計算方法で出てくるエルミート行列どうしの内積の値は必ず実数になる.対称な位置にある成分の積が複素共役になっていて合計したときに虚部が打ち消し合うからである.

SU(3) の生成子λ_iは 8 つの自由度を持つ行列だった.全ての成分を一列に並べて表してやれば,それはあたかも 8 次元空間内のベクトルのような存在である.その空間の中には 8 個の基底が存在する.8 次元ベクトル空間の中の基底のようなものとして 8 個の行列を選べるということである.(1) 式は,8 個の生成子が正規直交基底になるようにしようという条件なのである.

厳密にいえば少し違う.(1) 式の右辺は 2 になっているのでノルムが 1 になっていない.全てのλ_iの各成分を√2で割ってやれば正規直交基底になるだろう.

なぜ右辺が 2 であるかと言えば,こうすることでゲルマン行列のほとんどの成分がシンプルになるからである.SU(N) を論じる場合に 1 でも 2 でもなく N にするという流儀もあったりするが,もしそれに合わせようとするなら今回は 3 にすべきであろう.しかし今は SU(N) の N を変えながら広く議論しているわけでもないし,これからしばらくは SU(3) だけに集中して話そうとしているので,ゲルマン行列をシンプルに表せることの方が利点が多いというわけである.


構造定数の反対称性との関係

前回の話では 8 つの生成子λ_iの間に (1) 式のような関係が成り立つことを要求することで構造定数が反対称性を持つようにしてやったのだった.

ここで少し違和感を覚える.SU(2) を議論したときには (1) 式のような条件を課していなかったのに構造定数が反対称性を持っていたではないかなぜ SU(3) から急にこんな条件が要るようになったのだろうか

実は,偶然である.SU(2) でごく自然に導入したパウリ行列がたまたま (1) 式を満たしていたので構造定数が反対称性を持っていたのである.例えばパウリ行列のどれかひとつだけを実数倍してやれば (1) 式が満たせずに反対称性が崩れてしまうが,わざわざそんな不揃いな形のものを使う利点はないだろう.

本当に偶然と言えるのか,どの程度の偶然なのかという話はもう少しあとで書くつもりである.今はまだ機が熟していないのでこれ以上は踏み込まないことにする.

少し前の「交換関係の秘密」という記事の中で,構造定数の性質について論じている部分がある.「構造定数の性質」という節のところだ.そこでは生成子どうしが互いに独立であることをさらりと使っているが,それだけでは反対称性までは導けなかった.やはり直交規格化が必要になるのである.



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