ステファン・ボルツマンの法則

世界は電磁波に満たされている。

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どこを探せば載っているだろう

 ステファンボルツマンの法則というのはとても面白くてしかもかなり重要な法則なのではあるが、どの教科書にでも載っているというわけでもない。それには理由がある。

 この法則は、電磁気学の教科書に顔を出すこともあれば、熱力学の教科書で説明されることもあり、統計力学の教科書に登場することもある。しかも量子力学の発端に深く関係する話でもある。要するに、どの分野の教科書で責任を持って必ず触れておくべき話なのか、分担(?)がはっきりしていないのである。

 しかも各分野の基礎を説明する上で必要不可欠な知識というわけではなく、例題か応用問題扱いであることが多い。しかしこの話は各分野にまたがる重要な知識であり、物理学の発展史を語る上では欠かせないのである。

 私もどのページで説明したものやらと迷ったのだが、色んな知識を前提とした方が面白く説明しやすいという理由で「統計力学」に入れることにした。ついでだから、今回の話をきっかけにしてその後の話にうまく続けてみようと思う。その為にも統計力学の中で説明するのがちょうどいいだろう。


あらゆる物体は光を放っている

 電磁波というのは電荷を持った粒子が振動することで発生するのだった。そして電荷を持った粒子は、どこからか飛んできた電磁波を受けると、その影響で振動するのだった。そこらじゅうにある原子は内部に電荷を持っているのだから、何らかの方法で電磁波を放出し、また受け止めていると考えられる。

 例えば太陽の光だって電磁波の一種だが、それを受け止めた物体は熱くなる。電磁波の形で遠くから届いたエネルギーが熱に変わるからだ。逆のことも起きている。キャンプファイヤーが終わった後で火を消すと辺りは真っ暗になるが、その真っ暗闇の中で、さっきまで焼かれていた石がぼんやりと赤黒く光っていることがある。そこらにある普通の石が、内部から光を放っているように見えて、少し不気味ではあるが、何だか綺麗だ。

 他にも色んな例がある。ストーブの中で焼けた鉄板が赤く光っている。焚き火のときに炭が赤く光っている。ハロゲンヒーターが赤熱している。その光を浴びると、すぐに暖かく感じる。これは間にある空気を伝わって暖められるわけではない。光によって直接暖められるせいだ。このように、熱せられた物体から光や電磁波が出る現象を「熱放射」と呼ぶ。

 では物体は何度くらいから光を出し始めるのだろう。実は目に見えないだけで、低い温度の物体でも電磁波を出しているらしい。体温の高い人が近くに来ると直接触らなくても暖かさを感じることがあるだろう。それはその人の体から、可視光線よりも低いエネルギーの光である赤外線が放射されているのだ。

 電磁波というと、人工的な機械装置類を用いて発生させ、送信アンテナから照射させるようなイメージがあるかも知れない。しかし、人類がマクスウェル方程式を見出し、電磁波を人工的に発生させ始めるようになる以前から、それは身の回りにごく普通に存在していたのである。


ステファン・ボルツマンの法則

 では物体は一体どれほどのエネルギーを熱放射の形で放出しているのだろうか?それを調べたのはヨーゼフ・ステファンという 19 世紀の科学者であり、実はあのボルツマンの師である。彼は他の学者たちが過去に行った幾つかの実験結果をまとめた上で、自らも白金の針金に電流を流して赤熱させる実験を行ったりして、熱放射のエネルギー\( K \)と物体の温度\( T \)との間に次のような関係があるのではないかという提案を行った。 (1879)
\[ \begin{align*} K = \sigma T^4 \end{align*} \]
 この式は「ステファン・ボルツマンの法則」と呼ばれている。なぜボルツマンの名前が入っているかというと、後に、弟子のボルツマンが、当時の最新理論である電磁気学と熱力学を使って、この法則の根拠を説明することに成功したからである。 (1884)

 にもかかわらず、この結果はしばらくの間認められることはなかった。多くの科学者がこの実験結果を確認しようとしたが、追試がうまくいかなかったのである。今ではその理由ははっきり分かっているのだが、この法則には少しばかり適用条件があって、当時はそのことがまだ良く分かっていなかったのである。ステファンの実験がうまく行ったのは偶然の幸運であろうと言われている。

 その適用条件は次回に詳しく説明することにして、ここではまず、この法則がどのような理論によって導き出せるものなのかを説明しておこう。


理論的導出

 電磁波はエネルギーだけでなく運動量をも持つのだということを、電磁気学で学んだ。そこで、こんなことを考えてみよう。容器の壁が温度\( T \)の物質で出来ていて、そこから放出された電磁波で容器の中が一様に満たされており、そのエネルギー密度が\( u \)になっていたとする。

 この仮定は次のような考えを根拠にしている。もし容器の壁から内側へ向けて電磁波が放出される一方だとすると、容器内部の電磁場のエネルギーは無限に増える一方となるだろう。しかしそうならないのは、容器の壁は電磁場を放出すると同時に吸収も行っていて、一定の状態で安定しているせいだと考えられる。容器の中の電磁場と容器の壁とは熱平衡に達しているというわけだ。電磁場に対しても、温度という概念が使えるということでもある。というわけで、\( u \)\( T \)の関数だと言えるだろう。

 さて、そのときの運動量密度\( w \)\( u \)の間には\( u = cw \)という関係があるのだった。容器内部の電磁波は容器の壁に当たるたびに壁に運動量を与えるのだから、容器の壁を圧力\( p \)で押すことだろう。まずは、その\( p \)\( u \)の関係を導くことをしてみたい。

 説明が簡単に済むように、一辺の長さが\( L \)の立方体の容器を考えてみる。そしてどの壁を考えても同じことではあるのだが、ここでは後で出てくる極座標の積分計算を分かりやすくする都合で、\( z \)軸の正の方向にある壁に与える圧力を考えることにする。

 とりあえず容器内の全ての電磁波が一つの方向を向いているとしてみよう。その全運動量\( P \)は運動量密度\( w \)と体積\( V = L^3 \)を掛けて、\( P = wL^3 \)と表せる。全ての電磁波の向かう一つの方向というのが、\( z \)軸に対して\( \theta \)の角度を持った方向だとすると、壁に当たって反射するたびに、合計で\( 2P \cos \theta \)の運動量を与えることになる。その頻度であるが、電磁波の速度の\( z \)軸方向成分が\( c \cos \theta \)であり、往復\( 2L \)の距離を進むたびに再び同じ壁に当たるのだから、1 秒間に\( c \cos \theta/2L \)回の衝突を行うことになる。力というのは 1 秒あたりの運動量変化のことであり、それを面積\( L^2 \)で割れば圧力\( p \)が求まることになる。ここまでの話をまとめてみよう。

\[ \begin{align*} p\ &=\ 2P \cos \theta \times \frac{c \cos \theta}{2L} \div L^2 \\ &=\ 2 wL^3 \cos \theta \times \frac{c \cos \theta}{2L^3} \\ &=\ w c \cos^2 \theta \\ &=\ u \cos^2 \theta \end{align*} \]
 ずいぶんすっきりした形になって嬉しいではないか。しかしこの結果は、全ての電磁波が一つの方向を向いていると仮定した上での話であり、実際にはあらゆる方向を向いているはずだから、全方向について平等に平均をしてやらないといけないだろう。その為には立体角の考えを使えば良さそうだ。自分が半径 1 の球の中心にいて、周囲をぐるっと見回していると想像してみよう。どの方向も等しいのだから、この球の表面積にわたって今の結果を積分してやればいい。平均を取るためにはそれを表面積\( 4\pi \)で割ってやればいい。
\[ \begin{align*} p \ &=\ \frac{u}{4\pi} \int^{\pi}_{0} \cos^2 \theta \sin \theta \diff \theta \int^{2\pi}_0 \diff \phi \\ &=\ \frac{u}{4\pi} \left[ -\frac{1}{3}\cos^3 \theta \right]^{\pi}_{0} \times 2\pi \\ &=\ \frac{u}{3} \end{align*} \]
 これで、欲しかった関係の一つが得られた。余談ではあるが、この結果を分子運動論と比べてみると面白いかも知れない。前に\( pV = \frac{2}{3}E \)という結果を導いたことがある。「ベルヌーイの関係式」というやつだ。この両辺を\( V \)で割れば、\( p = \frac{2}{3}u \)であり、今導いた電磁波の場合と似た形にはなっているのだが、右辺に 2 倍の差があるのが分かるだろう。多分、光の速さが一定であり、分子運動のような速度分布を持たないことから出る差ではないかと思う。

 今導いた\( p = u/3 \)という関係は、電磁波を多数の光の粒子だと考える別のやり方でも導くことが出来るので、チャレンジしてみるのも面白いだろう。その場合でも、前にやった分子運動論の計算との本質的な差はその粒子の速度くらいにしかないだろうと思うのである。

 さて、先へ進もう。今導いた結果を、熱力学の式に代入してやるのだ。突拍子もないアイデアに思えるだろうか?確かにそうだ。しかし分子集団と同じように、電磁波にも圧力とエネルギーと体積と温度が考えられるのである。残るはエントロピーだが、もし電磁波にエントロピーがなければ、電磁波を利用することで第 2 種の永久機関が可能となってしまいそうだが、現実にはそうはなっていない。ここまで揃っていれば、熱力学というのは前提がかなり柔軟な体系なので、広い範囲にそのまま応用が利くのである。

 熱力学に次のような式があった。

\[ \begin{align*} \diff U = T \diff S - p \diff V \end{align*} \]
 これを変形して、
\[ \begin{align*} \thdif{U}{V}{T} = T \thdif{p}{T}{V} - p \end{align*} \]
という式を作ることが出来る。(\( T \)一定の条件下で\( V \)を変化させ、マクスウェルの関係式を当てはめればいいのである。)電磁波の場合、この左辺はエネルギー密度\( u \)のことであるし、\( p \)のところに\( p = u/3 \)を代入すれば、
\[ \begin{align*} &u \ =\ \frac{1}{3} T \dif{u}{T}\ -\ \frac{u}{3} \\[8pt] \therefore\ &4 u \ =\ T \dif{u}{T} \\[8pt] \therefore\ &\frac{\diff u}{u} \ =\ 4 \frac{\diff T}{T} \\[8pt] \therefore\ &\log_e u =\ 4 \log_e T + C \\[8pt] \therefore\ &u =\ a T^4 \end{align*} \]
となり、形の上ではステファン・ボルツマンの法則と同じものが導かれたことになる。しかし\( u \)というのは、物体と電磁場とが熱平衡にあるときの電磁場のエネルギー密度を示しているのであって、物体から放出されるエネルギー\( K \)とは少し違う概念である。それで、その違いについてもう少し考えてみることにしよう。


概念の整理

 \( K \)の意味を「物体の単位表面積から単位時間あたりに放出されるエネルギー」だと言えるようにまとめることが出来れば使いやすい法則になりそうである。

 微小面積\( \diff S \)から放出される電磁波をイメージしてみよう。その微小面の法線方向から\( \theta \)だけずれた方向へ向かって微小時間\( \diff t \)に出て行った電磁波は、以下の図のような筒状体積の内部にあることになるだろう。その体積は\( c \cos \theta \diff t \diff S \)である。

 しかしこの筒状体積とエネルギー密度\( u \)をかけるだけで、そのエネルギー量が求まるほど単純ではない。なぜなら、このエネルギー密度\( u \)というのは、あらゆる方向に向かう電磁波が均等に重なり合った合計のエネルギー密度を表しているからである。今知りたいのは、\( \theta \)方向へ流れる電磁波のエネルギーだけなのだが、その割合は全方向に向かう電磁波のエネルギーの中でどれくらいあると言えるだろうか。いや、厳密に\( \theta \)方向に向かう電磁波だけに限定してしまうとそれは無に等しいのである。だからある程度の微小幅を許容して考えないといけない。

 こういう時は立体角の考えを使う。半径 1 の球殻を考え、その表面積の比で表すのである。角度\( \diff \theta \)\( \diff \phi \)によって張られる球殻上の微小表面積は\( \sin \theta \diff \theta \diff \phi \)と表されるから、全球殻の面積\( 4\pi \)と比べた割合は\( \frac{1}{4\pi} \sin \theta \diff \theta \diff \phi \)となるだろう。

 先ほど考えた筒状領域を、厳密に一方向として考えるのではなく、角度\( \diff \theta \)\( \diff \phi \)の微小角度の幅を許してやれば、その範囲を向いている電磁波のエネルギーは

\[ \begin{align*} \frac{1}{4\pi} u c \cos \theta \sin \theta \diff \theta \diff \phi \diff t \diff S \end{align*} \]
と表せることになる。あとは、これを微小面より上にある全ての方向について積分してやれば、微小面\( \diff S \)から微小時間\( \diff t \)内にあらゆる方向へ出て行くエネルギーを表せる。
\[ \begin{align*} & \frac{1}{4\pi} u c \diff t \diff S \int_0^{\pi/2} \!\!\cos \theta \sin \theta \diff \theta \ \int_0^{2\pi} \!\!\diff \phi\\ =\ & \frac{1}{2} u c \diff t \diff S \int_0^{\pi/2} \frac{1}{2} \sin 2\theta \diff \theta \\ =\ & \frac{1}{2} u c \diff t \diff S \left[ - \frac{1}{4} \cos 2\theta \right]_0^{\pi/2} \\ =\ & \frac{1}{4} u c \diff t \diff S \end{align*} \]
 意味を考えれば今計算したのは\( K \diff t \diff S \)のことでもある。つまり\( K \)というのは、
\[ \begin{align*} K \ =\ \frac{c}{4}\, u \end{align*} \]
に相当することが言えるのである。ここに先ほどの\( u = a T^4 \)を代入すれば、
\[ \begin{align*} K \ =\ \frac{ca}{4} T^4 \ =\ \sigma T^4 \end{align*} \]
という形が成り立っていることが言えるのである。普通はステファン・ボルツマンの法則と言えば、ここで使ったような意味での\( K \)と温度\( T \)の関係のことであり、「ステファン・ボルツマンの定数」として良く知られた\( \sigma \)もその意味に合うような数値が書かれていることが多い。


太陽の表面温度

 この法則の応用の中で私が最も面白いと思うものを紹介しておこう。たったこれだけの法則を当てはめるだけで、太陽の表面温度が推定できてしまうというのである。

 まず、定数\( \sigma \)は身近な現象の測定により実験的に知ることが出来る。

\[ \begin{align*} \sigma \ \kinji\ 5.67 \times 10^{-8}\ [W \cdot m^{-2} \cdot K^{-4}] \end{align*} \]
 もちろん、今ではこの数値を理論的に導くことが出来るようになっているのだが、それはまだ後の話だ。

 そして太陽の半径\( r_s \)が分かっているので、太陽の全表面積も知ることが出来て、そこから太陽が 1 秒間に放出する全エネルギー\( E_s \)を計算することができる。

\[ \begin{align*} E_s \ =\ \sigma T^4 \times 4\pi {r_s}^2 \end{align*} \]
 地球と太陽の距離も分かっていて\( R \)だとしよう。そのエネルギーが地球に届く頃には、面積\( 4\pi R^2 \)の広大な範囲に広がってかなり薄められているだろう。\( E_s \)をその面積で割ってやれば、地球付近での単位面積あたりのエネルギーがどれくらいであるかが計算できる。それは地球に降り注ぐ日光のエネルギーの熱量を測れば実験的にも得られる数値である。現在では大気の影響を除外するため人工衛星による観測が行われており、約\( 1.37 \times 10^3\ [\text{W}/\text{m}^2] \)であることが分かっている。よってそれらをもとにして\( T \)の数値を逆算すると、
\[ \begin{align*} T \ \kinji \ 5800\ [\text{K}] \end{align*} \]
であることが求められるのである。初めてこの話を知った時、直接測ったわけでもないのに、こんな単純な方法で太陽の温度を決めてしまって本当に正しいと言えるのだろうか?と唖然としたものだ。もちろんこの結果がおおよそ正しいことは他の方法でも確認できるのだが、それについては少し後で説明することになるだろう。歴史的にはこの法則によって初めて太陽の表面温度が推定できるようになったのだった。